寄稿と作品からなるEメール機関誌「新・方法」第60号をお届けします。今号の寄稿者は、美術作家の齋藤帆奈さんです。
方法(method)の語源のひとつは継続的な病気の治療の体系化された手段だと言われている。科学論文では、実験手法のレシピがmethodと呼ばれ、同じ方法に従えば誰もが同じ結果を得られることが前提とされている。方法とは、曖昧で混沌とした世界――自己の外部に対して確実に目的達成しようとするときの手引きだ。
芸術において方法は、伝統的には表現技術の習得や維持に関わるものであり、それ自体が目的となることはない。伝統的な芸術家は、方法――技術の個人的再現性を高めることによって、世界の混沌に切り込、神秘や真理を見出し、直観的に把捉できる形で現前させてきた。そこでは、方法は背後に隠され、鑑賞者に表現されるものとするものの差異を意識させない。
ところが、20世紀初頭に端を発する概念芸術は、方法そのものを前景化することを始めた。方法の前景化は、対象を把捉可能な形に翻訳するのではなく、翻訳方法を提示することによって、文脈を相対化する力を持っている。高次の文脈は文化や知識であり、低次の文脈は同じ身体を持つことと言えよう。方法を前景化する芸術は、どちらの文脈も共有しない、曖昧で混沌とした世界における全き他者の存在を、伝統的な芸術とは別の方法で示唆することが可能なのではないだろうか。
そのような芸術は、芸術の範囲には収めきれなくなるだろう。方法を前景化するという意味では科学にも似るが、普遍性を志向しないという点では異なる。
矢印記号 第三番
http://7x7whitebell.net/new-method/shogobaba/060_j.html
矢印記号は多くの国で使われている、方向を示す共通記号である。方向を示す記号は、デジタル内に空間性を生み出す。本シリーズでは矢印記号を規則に従って並べ、視覚的に空間性を作り出す。
概念芸術としての白カビチーズ
http://masarukaido.com/newmethod/b060_j.html
コンセプチュアル・アートの先駆者の一人として知られる松澤宥は、1960年代に裏面に何も書かれていない郵便はがきを「すべての生物および無生物のための白紙絵画」と題して知人に郵送した。宛名面には、題名に引き続き3行で文章が書かれており「見よそこに ただ白色の円を」と締めくくられていた。
今作はその松澤作品に倣い、何も書かれていないWEBページにチーズを見る試みである。
見よそこに ただ白カビのチーズを
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寄稿者の齋藤帆奈さんや「新・方法」のメンバー3名も作品を出品した、「人工知能美学芸術展」は盛況の内に終了しました。「新・方法」がオープニングでテープ・カットを務めました。(新・方法)
平間貴大 @qwertyu1357
馬場省吾 @shogobaba
皆藤将 @kaido1900
機関誌「新・方法」第60号 日本語版
2018年2月4日発行