異象重色法 Mode of Color-Layering Different Events
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2009年 絵画作品 キャンバスに1024枚のトランプ、別紙にテキスト
2009, Pictorial art, 1024 playing cards on panel, texts.
3000mm * 2000mm
『異象重色法』は新しい絵画である。「新しい絵画」と主張する根拠は、「色彩」・「重色」・「規則」・「記号」の四つである。
「色彩」について。二十世紀は現代美術の誕生と発展を見る時代であった。現代は、「我々が目にする現実世界は光の粒であり、絵画も平面上に並べられた色彩の順序にすぎない」という概念がある。
「重色」について。重色は色を重ねて塗るという、歴史的な油彩の手法である。即ち絵画芸術の手法の一つである。十九世紀末で誕生・発展した、網膜上で混色をする「色彩分割技法(または点描技法)」を牽制する。
「規則」について。二十世紀は現代物理学・自然科学の発展を見る時代であった。現代は、「我々人間を含め、世界はあらゆる一定の規則に従って動いている」という概念がある。
「記号」について。二十世紀は現代論理学・言語哲学の誕生を見る時代であった。現代は、「我々人間は、言語(記号)によって、論理、思考、物さえをも形作っている」という概念がある。
『異象重色法』は、私によって作られた造語である。正しくは「異象」のみが造語であり、「重色」は油絵などの色の塗り方における一般語である。「異象(いしょう)」とは「異なる事象」を意味し、「異象重色法」は、その「異なる事象」同士を一つのキャンバス上で重色して重ね合わせて、一つの絵画を作り出す方法であり、そして絵画作品それ自体でもある。
キャンバスの上には、トランプが敷き詰められている。周知のようにトランプは、スート(マーク)・色彩・数字の三つの要素を、一枚につき一つずつ有する。一枚ずつがいくつもの要素を有し、それらの組み合わせによって単純ながらも多様になり得る「トランプ」を、『異象重色法』では画材として用いる。
この作品における「異象」とは、数字と色彩である。数字とは記号であり、つまり言い換えれば、「記号と色彩」である。
「色彩」と「記号」は、共に一定の「規則」によって決定的に導かれ、論理的に正しく配置される。絵画の主題は、「美しいもの」でなく「正しいもの」であって良いはずだからである。「美しいもの」も、かつては形式や神の正しさに従っていた。現代の正しさとは論理である。だからこそ、論理(計算)によって導かれた結果をそのまま主題にすることも、絵画たり得るのである。
更にこれが「記号と色彩」の「重色」によって、新しい絵画を生み出す仕掛としている。「重色」と言えば、通常は油絵の具などを重ね塗りすることによって別の色にする塗り方を指す。通常の重色は、ある色を置いてその上に別の色を置くわけだから、これは別の層に重ねることになる。しかしこの『異象重色法』では重色の定義を拡張し、「色彩」の平面上での配列と、「記号」の平面上での配列を、同じ層に居合わせる。一つ一つの独立した色彩を混ぜ合わせることなく配置する方法と、重色という技法は、本来相容れない。それらを、トランプという画材が二つの要素を有することを画材にすることによって同時に行うことができる。この特殊な画材は、色彩側の規則と数字側の規則を結びつける素材であり、それが全ての画素(トランプ一枚ずつ)に当てはめられることは、それらの結合の必然性を強固にする。
『異象重色法』は、これらの絵画的要素を含む、絵画芸術である。
2009年12月19日 December 19, 2009